国家戦略特区など、特区による規制緩和は住民投票が必要?~憲法95条より~

国家戦略特区のメニューが報道されています。
規制緩和のメニューは、公立学校運営の民間委託を認めることや、海外で承認されている医薬品を使う自由診療と保険診療を併用する混合診療の拡充など。
これらは、国家戦略特区関連法案で規制緩和を可能にするようだ。報道によれば、医療・雇用・教育・都市再生・まちづくり・農業・歴史的建築物の活用などいくつもの分野にわたる規制緩和のための法改正を一つの法律で一括で行うようです。
国家戦略特区法案と憲法95条「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない」の関係について考えてみました。
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構造改革特区の時から、「特区」で行う規制緩和に関る法律は、構造改革特別区域法など、一つの法律に、対象となる全ての法改正を盛り込み、一括で行ってきています。
憲法95条は、ある自治体だけで適用される特別法は、その対象となる自治体に置いて住民投票をしてその過半数の同意を得なければ、国会で制定することができないとしています。
ところが、「各界トップが語る改革のプロセス」の中の対談で、当時、自民党の構造改革特区法推進に関する特命委員会(野呂田芳成委員長)の林義正事務局長代理は、反町勝夫氏からの特区法の法律としての特性について、
名称こそ「特区:ですが、この特区の法律は、一つの自治体のみに適用される特別法(憲法95条)ではありませんね。つまり、特定の地域に適用されると言っても、申請、認定という要件が整えば、どの自治体にも適用されるということで、一般法であるということなのでしょうか。
と聞かれて、
おっしゃる通り、今回、全国に適用できる仕組みをつくったということです。・・・・・あらかじめ特定の地区を念頭に置いて、その地区のために特別な措置を講ずる特別法的な法律ではありません。
と答えています。
特区法による規制緩和は、憲法95条のいう特別法では無く、希望すればどこの自治体であっても適用できるから住民投票は不要であるとして、住民投票をおこなっていないのだと言っているわけです。 
早稲田大学の水島朝穂教授は、
憲法95条にいう「一〔いつ〕の」は、○○市という形で、文字通りの一自治体を意味するものではなく、「特定の」という意味で、共通の問題をもつ複数の自治体を含む。この点は、学説上、実務上争いはない。
http://www.quon.asia/yomimono/business/column/mizushima/273.php

と言っておられます。
憲法は、一部の自治体だけの法律の制定について、それだけ、自治体間の公平性、平等性にこだわり、絶対だめではないが、住民の合意を得たうえでやりなさいと言っているわけです。
秋の国会に提案される予定の国家戦略特区関連法案の中身はまだ見ていませんが、一括法で法改正となれば、構造改革特区法同様、特別法でなく、理論上、全ての自治体に適用可能な法律として提案してくるのでしょう。
しかし、そうなると、なぜ、元の法律をひとつひとつ改正せず、一括法で対応するのかという疑問がわいてきます。
各法で改正すれば、規制の事前評価という問題や
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/zizenhyouka.html
規制の事前評価の実施に関するガイドライン http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/pdf/070824_2.pdf
パブリックコメント
と言った問題も出てくるはずですが、国家戦略特区では、今のところ、それらの手続きを一切していません。W/Gへの意見公募という形で済ませてしまうつもりなのでしょうか。 http://blog.goo.ne.jp/nasrie/d/20130922
W/Gへの意見募集だけで終わらせようとしている【国家戦略特区における提案に関する意見募集】への意見 http://blog.goo.ne.jp/nasrie/d/20130923
特に総合特区と地域活性化特区は、最初からその対象を、大都市とそれ以外の都市に分けている法律であるように見えます。申請認定すれば全国どこの自治体でも適用可能という形にすることで、結果として住民投票を逃れているわけです。
たとえば、東京23区域に広がるアジアヘッドクオーター特区は、特区内の一定の要件を満たす企業に対して法人事業税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税等を100%減免しています。ところが、固定資産税は、東京都が徴税したのち、23区と45:55の割合で財政調整することになっています。アジアヘッドクオーター特区の区域において、開発が進み住民税の増収が見込まれる自治体が有る一方で、区域外の自治体にとっては固定資産税の減収と言う影響だけをこうむります。
東京都が勝手に決めて、23区の財源に影響の出るこのしくみについて、東京都は23区全体できちんと協議すべき問題だがと委員会で指摘したことがありましたが、大田区の職員は答えることができませんでした。
委員会で私が感じた違和感は、この憲法第95条の主旨につながっていたのだということです。
説明では、住民投票は必要ない特区に関する法律ですが、海外で承認されている医薬品を使う自由診療と保険診療を併用する混合診療の拡充は、お金のあるなしによる医療の公平性を欠くことになりますし、特区内における自治体医療保険会計の悪化につながります。
公立学校の民間委託を可能にすることは、教育を消費として取り扱うことを意味しますから、学校教育への影響が気になります。私立学校は民間がやっているからという発言もありますが、義務教育に株式会社など民間を参入させれば、選択の余地がなくなります。
特区だけでなく、全国展開すれば、全ての医療保険会計が悪化し、義務教育の選択の余地もなくなるから平等になるということでしょうか。