福岡空港事務所・北九州空港について視察 羽田空港対策特別委員会視察報告 

大変に評判の悪い議員の視察ですが、目的意識をもってのぞめば、学ぶべきことはたくさんあります。今回の羽田空港対策特別委員会の視察は、福岡、北九州空港でした。羽田の都心低空飛行を、伊丹も福岡もあると国交省に言わせる空港ですが、行ってみれば、国内線と近距離国際線の空港であることがわかります。また、落下物は、遠距離国際線で起きるというのが国交省の見解と聞きました。羽田の飛行ルート変更の問題は、都心上空低空飛行だけでなく、なぜ、その時間帯に落下物リスクの多い、遠距離国際便を飛ばすのかという問題でもあります。
国土交通省大阪航空局 福岡空港事務所、福岡県、北九州空港を訪問し、空港の概要や周辺の騒音対策等環境について説明をうけましたので報告します。
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羽田空港対策特別委員会視察報告

■日時:2016年11月10日
■場所:国土交通省大阪航空局 福岡空港事務所
■視察課題:市街地上空の飛行経路に伴う騒音問題等への対策について

【福岡空港の概要】周辺の騒音対策等環境 *()内は奈須の加筆
国土交通省大阪航空局 福岡空港事務所を訪問し、空港の概要と周辺の騒音対策等環境について説明をうけた。福岡空港は、東と南に山を控え、西と北に市街地が広がる空港で、山口県方向を通り海からATMCを通り、南方向に着陸し、南方向に離陸する便が7割。
久留米方向から着陸し、北に離陸する便が3割という運用をしている。

飛行機は一般に、着陸時の方が音が大きく聞こえ、また、着陸時の飛行機の速度も遅いため、影響する時間も長くなる。(そうした意味で、滑走路の北側に広がる市街地への影響が大きい空港であると言える。)

騒音指定区域は、
第三種区域 Lden76以上が79ha
第二種区域 Lden73以上が216ha
第一種区域 Lden62以上が1750ha
と指定されている。

これらには、道路や工業施設も含まれる。

これらの指定区域に対しては、区域が告示されたときに住んでいた人が保障されるため、防音設置工事が終了し、冷房設備は2回更新できるため、その更新を行っている。そのため、現在、地域に対しては、パークゴルフの設置やリフレッシュ農園などを設置などが対策となっている。

(*これは、福岡県からの話を伺った際にも、騒音はどうすることもできないため、地域づくりをどうしていくのかが課題になっているという話とも一致する。)

福岡空港周辺では、機種などの変化により、騒音値dbは下がっているものの、回数が増えているため騒音影響を受けているという感覚は増している、というのが福岡県の認識。

福岡空港は24時間空港だが、地域住民との歴史的経緯から、7時から22時まで、発着一時間35回までの自主規制を行っている。
ただ、羽田空港からの最終便は、羽田の離陸時間の遅れもあり、22時までと言う自主規制が守れないことも多い。
過去には、年に700回から800回の遅延もあり、地元住民で構成される「空港地域対策協議会」からも指摘され、改善を求めているところだが、それでも、今も22時を過ぎることが年に400回くらいある。

現在、福岡空港は2本目の滑走路を建設しようとしており、騒音がもっとひどくなるのではないかという地元の心配もある。新滑走路建設に地元の理解を得なければならない大切な時期ととらえていることから、発着時間は自主規制だが、この遅延についても努力して改善しようとしている。

空港の騒音問題については、歴史的経緯から地区の代表や町内会からなる「空港地域対策協議会」が存在し、そこと、国、県、市が必要に応じ調整している。事務局は、「空港地域対策協議会」自身が担っている。

空港対策の基本的な方針は、過去に福岡空港で起こされた裁判の結果をもって行われている。

落下物は、国際便長時間飛行により、機体に氷が付着して起きるというのが実態的な認識で、冬場に多い。福岡空港の場合には、国際線でも近距離が多い。(今後、(長距離の)国際便が増えれば、リスクは増える。)

便数の増加は、必ずしも利用者の増加ではなく、航空機の小型化にある。これは、過去には、ジャンボジェット機一機あたり100万円と小型機数万円の着陸料の違いもあったが、現在、ジャンボ機の着陸料が30数万円と1/5~1/4になっている。(着陸料だけでなく、収益性から小型航空機になっている。)

現在、空港の民営化に向けた検討を行っている。
民営化は、30年から35年のスパンで、所有権は国に残し、運営権を譲渡。民営化会社は空港着陸料を収入に空港を運営することになる。
【所感】

空港は、昭和19年に帝国陸軍に接収されたのち、戦後地主に戻されるが、その後、米軍が接収する。昭和51年には騒音訴訟が起こされ、飛行禁止は却下されたものの慰謝料1.4億円の支払いを命じられるなどの歴史的な経緯を経て、現在の福岡空港がある。
空港の存在は、否定できないものの、飛行時間や騒音対策などの課題があり、空港事務所、福岡県などは、その歴史的経緯から、地域住民との関係を大切にして取り組んでいる。
そうした意味では、同じ混雑空港でありながら、「騒音と住民の快適な生活環境を守れない限り空港は撤去するとした決議」を尊重して空港運営してきた国が、都心内陸飛行を提案し、東京都と大田区が、新飛行ルート案を容認している羽田空港のおかれている状況と、福岡空港との違いを感じた。

安全と快適な住民生活の確保を前提としている。2010年の再国際化も、当初は近距離飛行であったにもかかわらず、地元大田区の意見を排除し、国家間で進む航空協議で羽田空港の遠距離飛行を始めようとしている。いまこそ、歴史的経緯を確認し、安全と環境の視点から再国際化を検証すべきでると考える。

福岡空港における国際便の就航に伴う落下物のリスク、民営化に伴う利益最優先の空港運用、第二滑走路建設への空港事務所の対応などから、羽田空港において首都圏機能強化から提案されている新飛行ルート案における、落下物への説明や、航空業界の規制緩和、第五滑走路建設との関係など、説明不足の部分が際立ち、明らかになった有意義な視察だった。

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■日時:2016年11月10日
■場所:国土交通省大阪航空局 福岡空港事務所
■福岡県の空港の将来構想について

【県の説明】
福岡県は、福岡空港と北九州空港の二つの空港を持つ。県は、空港をヒトモノが活発に移動する拠点ととらえ、この交通基盤を整えることでアジアの活力を取りこむことを基本に福岡県の空港の将来構想を作っている。この将来構想について福岡県から説明をうけた。

福岡県は、空港を取り巻く状況について、東アジアにおける空港間競争があり、空港の自由化に伴う規制緩和、オープンスカイ、LCCの伸長、ビザ緩和などによる訪日外国人旅行者の拡大、などを前提とした構想を作っている。

福岡空港は、2800mの滑走路1本。北と西に市街地を抱え、都市に近接した空港で近年さらに過密化している。24時間型空港だが、訴訟などの歴史的経緯もあり、7時~22時を利用時間としている。

一方の北九州空港は、土砂の浚渫土を埋め立てて空港にしている周辺を海に囲まれた海上空港。24時間利用が可能な空港だが、旅客便は羽田空港路線、加えて、自治体の努力で大連、釜山線のみとなっている。空港への公共交通機関が運行されていないなど、アクセスが課題。

福岡県は、貨物とLCCを北九州に、国際線を福岡空港へと位置づけて取り組んでいる。

【所感】
国内線、国際線、旅客、貨物など、航空便の特徴にわけた航空政策が必要だと感じた。
北九州空港の成立背景が、そもそも、空港ニーズより、浚渫土でできた土地の利活用から始まっており、問題の本末の転倒を感じる。新幹線の開通により航空需要を新幹線に奪われ、九州の拠点機能が博多に移って行ったのは、空港の有無の問題ではなく、日本の産業構造の変化に伴う帰結であったと考えるべき。

そうした意味では、空港の設置により産業構造か変わるわけではなく、産業政策をどうするかという視点でスタートするべきであると感じた。

一方で、LCCの台頭やアジアの発展などもあり、航空機という交通機関がより一般的になっている昨今、福岡空港と北九州空港との住み分け、在り方は、羽田と成田にも共通する問題であると感じた。

いまや国民の日常的に利用する足となっている国内航空路線、それよりは利用頻度の低い国際線、観光客利用のアジアとのLCCや長距離国際線、そして、周辺に物流システムインフラ整備を必要とする貨物、小さいけれど、市街地に大きな騒音影響を与えるヘリコプター、等々の特徴、課題を明らかにしたうえでの航空政策が必要だと感じた。

密集した福岡空港は現在、近距離国際線のみだが、福岡県では、長距離国際線の招致をしようとしている。

騒音や落下物を考えれば、国際便は北九州空港に特化にすべきではないだろうか。
羽田と成田とのすみ分けも崩されてきているが、こうした一極集中は、すでに国内線需要が陰りを見せているにも拘らず滑走路への投資を正当化するための需要を支える理屈作りとなっていないだろうか。

TPPなど、グローバル化を政府は進めようとしているわけで、(視察時期を同じくしてTPP反対のトランプ氏が米大統領に当選し、(私自身、TPPは反対だか)また変化もあると思われるが、)これを進めることは、輸入に依存していく社会へとシフトしていくことを前提としなければならない。貨物の拠点は福岡の福岡になっているが、航空貨物の拠点整備が遅れているのをみると空港建設ありきで進んできた航空政策の失敗を感じる。

一方で、民営化も進められている。国や県は、民間の株主利益優先の空港経営により、増大する騒音や落下物リスクに対し、どのような歯止めを考えているのだろうか。
民営化になることでの安全策や騒音対策はどうなるかという質問に対し、これから検討していくという回答だったが、まず、安全・環境対策の確保の上の、経営の在り方であるべきで、このあたりにも、何のための民営化、空港運営なのか、疑問を感じた。

背景にある規制緩和、経済の自由化をみれば、経済利益の前に、行政責任の放棄ともいえる構想と感じた。

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■日時:2016年11月11日
■場所:北九州エアターミナル株式会社
■視察課題:北九州空港のこれまでのあゆみと今後

【北九州空港のこれまで】
戦前の陸軍飛行場として建設され、敗戦後米軍に接収。接収解除後小倉空港として大阪間などの運航をしていたが、昭和50年小倉への新幹線の開通により北九州空港の利用客が減少し、平成58年定期便の運航を休止。

1965年の福岡空港ジェット機就航から、北九州の九州支店機能が弱体化してきた。その後、ようやく平成18年に新北九州空港が開港した。

時間はかかったが、関門の土砂浚渫土の廃棄場所を利用し、道路は県道など国費、県費で整備してきたため、空港建設費は、1000億円。名古屋の7000億円、関西の2兆円に比べてもコストの安い空港。

空港は出来たが、航空便の確保が課題。

外国観光客の誘致や24時間化空港の特徴を生かし、LCCや貨物便の招へいを狙っている。
LCCは航空機で787ー800やエアバス320を使い、乗客数をできる限り詰め込んだ180人~190人で運行するため、燃料タンクが小さく、飛行時間は3時間から4時間。関西や東京ではカバーできないタイやヴェトナムなどの観光需要を狙っている。
特に、タイ、ベトナム、フィリピン、台湾、香港など、利用客増加率の高い地域からの観光客に来ていただくために、入国管理カウンターの増設や免税店のレジの増設など設備整備や、ニーズに合わせた観光ソフトの提供などを計画している。

招へいのインセンティブとして、固定資産税の減免策などもあり、税金の増収は期待できない、雇用が創出されることが重要であると考えている。インフラ整備に税金が投入されるが、自治体負担は少ない。

貨物機は大型機だが、輸出が主で輸入は福岡に船便で入るため、貨物便の就航は難しい。

LCCの雇用効果は、一機50人程度だが、航空機が北九州空港に停泊するかどうかで大きく異なる。来た便がそのまま帰れば、日本での雇用はさほど望めない。

ほか、機内食などの補給や清掃などが効果として期待できるが。

空港に係る計画は、北九州市の企画部、産業経済部となる。

【所感】
印象は、福岡県とほぼ同じ。
便数増などによる税収で経済効果は見込めないことを間接的に答えており、経済効果とは何かを明確に位置付けていないところに、北九州市だけにとどまらない、現在の日本の産業経済政策の危うさを感じた。

本来であれば、福岡空港との国内線、国際線のすみ分けによる安全・環境確保の視点での空港運営が重要だが、そうした視点にたっているわけでも無い。
その証拠が福岡空港の第二滑走路建設ではないか。
作って作りすぎた空港の便数確保といった感は否めず、こうした空港が全国に40近く存在し、それが羽田空港の増便要因ともなっていると感じる。

短時間の就航LCCを招へいするということは、来て帰る便を呼び込むだけで、観光客の落とす金と設備にかけるインフラとの経済効果の試算をすべきであると感じた。
これが、インフラへの税金投入より、税収入が少なければ、航空事業者、空港運営者に経済利益をもたらすために、税金で設備経費を負担している構図になるだけだということだ。
しかも、民営化で着陸料も空港事業者の収入になれば、国家財政への歳入が減る形になる。
それでは、国家財政歳入額は、こうした民営化により減ってきたかといえば、そうではなく、増え続けている。結局、民営化は財政構造を変化させるにも拘らず、それが見えにくくなるという問題もある。

また、効果として指摘された雇用についても、LCCは、基本的にコストカットの原理で動くため、仮に雇用が創出されても、低賃金の不安定雇用である可能性が高い。しかも、説明にもあるように、停泊することが重要で、到着して短時間で整備し、離陸するとなれば、雇用も望めない。

国費、県費がかからないから低コストの空港、といった認識も、国費も県費も私たちの税金であることを考えれば、コスト意識に欠けている。そのうえ、固定資産税を減免し、着陸料を低くし、さらに空港を民営化すれば、航空産業による経済効果は、税金面で還元される可能性が低くなる。そうなると、旅行客一人当たりが、いくらどこに落とし国民がどう潤うのか、どういった職種の所得いくらくらいの雇用がどれくらい増えるのかの試算は重要であろう。

外国人旅行客が、日本的な体験を好むといった話を聞くと、自然を破壊し、一次産業を破壊させ、伝統的なくらしから大きくかけ離れてグローバル経済にまきもまれようとしている日本において、外国人旅行客から求められている観光資源さえ失おうとしている。にわかづくりの張りぼての日本風ではない、国民の暮らしに根付いた歴史と伝統や、日本の一次産業、二次産業、三次産業全体構想の構築が求められる。

移動は自転車、それも自転車持参の環境客もいるといったエピソードを聞き、観光の効果をうたい上げ期待を寄せさせているが、滑走路、空港などのインフラ整備に莫大な税金をかけて、航空会社に利益を与えるものの、利益を受けるのは、インフラ整備とホテル業など一部で、国民が得る土産や食事などの観光収入は、投入した税金に比較しことのほか小さいのではないか。税金の使い方とそれに伴うお金の流れの不経済、非効率を感じた。明らかにすべきである。