リニア中央新幹線環境影響評価準備書についての意見@東京都主催の公聴会

日、リニア中央新幹線について、東京都が開催した公聴会において、意見を述べました。

大田区の下100mを走るリニア中央新幹線ですが、事業者が環境影響評価の準備書について、東京都が、都民の意見を聴く場を設けました。

下記のように、意見を述べましたのでご報告いたします。(参考原稿)

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超伝導リニアによる中央新幹線の整備に関わる環境影響評価法に基づき提出されました環境影響評価準備書について、都民として意見を申し述べさせていただきます。

【環境影響評価法とは】

 環境影響評価法は、規模が大きく環境影響の程度が非常に大きいものについて、

①「あらかじめ環境影響評価を行うこと」が大切だから
事業に係る環境の保全について、将来にわたり健康で文化的な生活が営めるよう

作られた法律です。

【あいまいな理由による「環境影響は少ない」】

 ところが、出された環境影響評価準備書は、予想される環境影響について、具体的に示していない部分も多く、根拠のない、あるいは、根拠のあいまいな環境への影響は少ないと言った評価や、掘りながら対処する、掘ってから考えると言った対応が散見します。

 特に、問題なのが、環境影響の評価にあたり、「関係法令に基づき適切に処理・処分する」にとどまり、具体的な量など数値、場所、方策とそれに伴う環境影響回避の程度などについて示されていないものがあることです。

 過密した都市において、あるいは、自然豊かな地域において、これまでに無い新しい超電導という技術と大深度地下という経験したことのない環境において、しかも規模の程度が非常に大きく環境に与える影響が非常に大きいと予測される事業だから、国民が健康で文化的な生活が出来るために、「その影響の程度とそれを具体的にどのような方法で軽減するかを法は求めているわけです。

【スタートすると止められない公共事業と事前評価の必要性】

  ただでさえ、一旦、スタートしてしまうと、たとえ、環境に影響が表れたとしても、始まった事業をやめることは困難なことです。
 特に、昨今の経済を優先させる政治状況下において、経済効果10兆円を超えると言われているリニア事業がストップすることは、更に難しいでしょう。だからこそ、法が求める通り、事前の環境影響評価が重要なことは言うまでもありません。

【因果関係が認められなければ発生しない責任と予防原則】

 ここ何年か、多摩川リニアの近くにあるせせらぎ公園内の湧水が枯れてきています。それまで建設されてきたマンションなどの影響も一因と考えることもできますが、因果関係は証明されておらず、事業者の調査は不要で地域の開発は進み、行政も調査せず湧水はただ枯れていきます。
 小さな工事では、環境影響評価は義務付けられず、小さな影響が積み重なり全体で与える環境の変化については、誰にも調査の義務はないから調査せず、環境は悪化するばかりです。

 しかも、大きな事業における環境影響も、準備書はリニア建設による周辺の湧水への影響を小さいとしていますから、この根拠のあいまいな「環境影響は小さい」という言葉で済まされようとしています。
 このまま、リニア工事が始まり、仮に、洗足池の水量が減り周辺の景観や動植物に影響がでたとして、東京都はどう対応するでしょう。地下で起きていることと周辺環境変化との因果関係を明らかにするための大規模な調査を行うでしょうか。
  事業を速やかに執行したい事業者が出してきたあいまいな根拠に基づく「問題ない」という環境影響評価を都民の立場で点検し、事前にあいまいな部分を明らかにし、都民の将来にわたる健康で文化的な生活を確保するのが東京都の役割ではないでしょうか。

【不十分な環境影響評価による都民への負担増】

 湧水の問題にとどまらず、環境に影響が出れば、廃棄物処理、自然や環境保全、交通渋滞対策など、行政が対応しなければならないものが少なくありません。 事業に係る環境影響負荷に対し、事業者の予測と対応が不十分であれば、結果として行政が税金で尻拭いをする構図は納得できません。
 リニア新幹線という事業の大きさや、予測しうる周辺環境に与える影響の重大さを認識したうえで、あらかじめ行う環境影響評価準備書としては不十分です。このような不十分な準備書で、都民は、環境影響を評価したとは認められません。

【決まっていない廃棄物処理】

 たとえば、地下トンネルと非常口を作るに当たり、都内だけで750万㎥を超える莫大な量の土砂等の運搬が必要になります。現場で使用する車両の運行台数は、場所によっては、一日当たり800台程度にも及びます。

・分からない経路、処理方法、処理量

 ところが、車両の進入、搬出経路や、待機の状況、搬出先、運行時間帯などについて、十分に示されていません。たとえば、雪谷の非常口から、出た車両の経路は、中原街道を右折した後、春日橋手前までしか記されていません。中央か山王で処分するのか、その先は未定なのかよくわかりません。経路も分からず、影響ないとなぜ言えるのでしょうか。
 中原街道も環七も交通量の多い道路で、搬出入にかかわる交通渋滞も気になりますが、それに伴う排ガス、騒音振動などの影響を具体的に知ることが出来ません。特に、環七の松原橋付近交差点や、経路が途中で止まっていてわかりませんが、その先の大森東付近は、大田区でも大気汚染のひどいところです。

 しかも経路がわからない問題は、廃棄物処理が決まっていない問題でもあります。
 建設発生土、地下構造物などは、埋立処分場、海洋投入等、流動化処理土埋立、再資源化施設などに搬出されると記されていますが、具体的な搬出先や処理方法とそれに伴う処理量が明らかになっていません。
 搬出先や処理方法によって、車両の進入、搬出経路も変わるため、具体的な処理処分方法ごと処分量は、現時点で、明確に示すべきです。環七まで示された搬出の先が、臨海部なのか、中央防波堤なのか、千葉の産廃施設なのか、あるいは、それ以外の方法を考えているのか、都民は知るすべがありません。

・都民最後の処分場への影響

 処理方法が示されていないのは大きな問題です。中央防波堤は、残余年数50年とも言われる、東京都民の最後の処分場で、区民、中小企業や公共工事に係る廃棄物の受け入れを基本としています。仮に、リニア建設に係る発生廃棄物750万㎥の一部を処理することになれば、今後の東京都の廃棄物の最終処分計画にも大きく影響し、環境のみならず、財政的にも都民に大きな影響を及ぼします。

・目白押しの公共事業との整合性

 特に、オリンピック招致やアジアヘッドクオーター特区などにより、今後、都内でインフラ整備が集中することが予測されますから、車両運行経路も廃棄物処理も、計画的な処理処分見通しが必要で、当てにしていた処理が不可能になり、中央防波堤埋め立て処分場に更なる負担を及ぼすようなことがあってはなりません。
 また、廃棄物には、一部汚染されているものも含まれていますが、「海洋投入」と言えば聞こえがいいのですが、要は、海に捨てるという計画も記されています。
 計画には薬剤の使用も記されており、トレーサビリティーの観点から、廃棄物の種類ごとの処理方法、量や搬出先を明らかにすることで、不法投棄や不適正な処理を防ぎ環境を保全すべきです。

【南関東ガス田の爆発限界を超える濃度の影響】

 地下、100mを掘削し列車が運行することの影響についても、数多くの心配があります。川崎市でも触れられた「南関東ガス田」ですが、国土交通省関東地方整備局東京第二営繕事務所のHPに記されている通り、リニアが走行する区域には日本有数のガス田が広がっています。2007年の渋谷の温泉施設のガス爆発は記憶に新しいところで、地域によっては、可燃性の天然ガスが地表に出ているなど状況も異なるようです。
 南関東ガス田に係る調査は、非常口近くの3か所で行われていますが、数少ない調査地点の一部から、爆発限界を超える濃度が測定されています。

 都心部に広がるガス田ですが、大深度地下、トンネル内、非常口などでガスが漏れたり、地上に導びかれたりする可能性は無いでしょうか。
 調査地点は少なすぎるので詳細なガス田調査を行い、工事におけるガス対策だけでなく、地上やトンネル内にガスが漏れ出る可能性や安全対策についても明らかにしてください。

【浸水防止の薬液注入と周辺環境への影響】

 一方、事業では、浸水を防ぐ、あるいは、地盤改良のための薬液注入が行われることがあると記されています。その際の、安全策については、指針が示されるのみで、具体的な方策や地点について明らかにされていません。地盤改良は、どのような土壌の時に、どういった方策により行い、安全策はどうとっていくのか、具体的に示してください。

・年々上がる地下水脈との関係

 最近では、地下水脈が上がってきているという調査報告もあり、薬液注入は一部だけでなく、より広い箇所で行う可能性があるのではないでしょうか。そうなれば、排水、下水対策、周辺環境への影響防止、汚染土壌や地下副産物の処理などの対策にも影響します。工事をしながら地盤改良の箇所を決め、都度、講じる方策を考えると言った施行は、有害物質を自然環境に放出させる可能性があり心配です。

【東京都有数の自然環境の下を通るリニア】

 特に、都内に設置される非常口やトンネル周辺には、大田区内ですと地域の湧水が集まる洗足池、小池や呑み川、世田谷区に入り等々力渓谷、から多摩川、町田市では、小野路地区歴史環境保全区域、小山田緑地公園、小山内裏公園、野津田公園などの都有地や自然公園もあり、鶴見川に通じる水源となる源流地域とも重なっているなど、都市の貴重な水を中心とした自然環境が残っている地域です。 これらの地域は、水をたたえた川や池を中心に豊かな動植物からなる生態系がはぐくまれています。

・非常口

 非常口の設置により、粘土層で支えられている帯水層から水が抜けてしまう可能性。加えて、水が豊かな地域だから地下構造物の老朽化対策が必要で薬液注入することになるわけですが、地盤改良した土壌の周辺環境への影響についてどのように防止するのか、また、その後どう監視していくのか明らかにしてください。

【将来にわたる環境保全の監視体制】

 法は、将来にわたり環境を保全することを求めていますが、それをどう監視していくのかの
しくみが明らかになっていません。
 湧水だけでなく、騒音、振動、大気汚染、電磁波、低周波、周辺の水質や湧水の状況、動植物などの生態系などについての、工事や運行に係る影響は、いずれも、小さい、問題ないとしていますが、その根拠はあいまいで、十分な調査による影響評価が必要です。
 一方、工事を始めたら、運行したら、評価と異なる影響が起きた場合の対策について示さなければ、将来にわたる環境を守ることはできません。
 事前の調査とともに、工事から運行まで一貫して周辺住民が常時監視・記録できるよう測定器の設置や定期的調査のしくみなど監視体制を講じる必要があります。

 環境影響は、環境影響評価を行い、お墨付きが得られれば終わるものではありません。  

【住民とのリスクコミュニケーション】

 法は、明確に将来にわたり健康で文化的な生活が営めることを求めています。
 環境影響への常時監視体制のしくみを作るとともに、その結果をもとに、事業者、東京都、国と地域住民が定期的な懇談のできるリスクコミュニケーションの場を作ってください。
 事業を速やかに執行したい事業者が発注して、事業者に作成させた環境影響評価書が「いわば」利益相反でないことを、第三者として、また、中立公平な立場で、点検するのが東京都の役割であると考えています。
 今日の日本の環境影響評価は、小さな事業は義務付けられず、小さな影響が積み重なり、全体で与える影響については、誰も評価の責任を負わないしくみです。特に、対象を因果関係のあるものに限定している日本の予防義務の考え方において、個々の環境影響を丹念に、詳細に評価することは非常に重要です。

【大都市東京の広域自治体としての責務】

 東京都におかれましては、23区の大都市事務を担う広域自治体として、また、大都市東京としての役割を十分に認識して評価してください。

 リニア新幹線は、公費投入は無く、内部留保と自己資金で賄うとしていますが、要は、運賃で私たち利用者が支払い支えるものです。
 JR自身がリニアはペイしないと言っているとおり、当てにされている運賃収入は、リニアだけでなく、東海道新幹線など、他の路線にも及びます。

【低成長期における公共事業の在り方と都民の負担】

 高度成長期とは異なり、必要なインフラはほぼそろい、人口は増えず、高齢化は進み、労働人口は減り、飛躍的なGDPの増加が見込めない中、社会全体が支えられるインフラの総量を考慮せず、インフラ整備を続ければ、税にせよ、利用料金にせよ、支えるのは、結局は私たちで、負担は、暮らしに及びます。

【子どもたちの世代への東京都の責務】

 環境に大きな負荷をかけ、その負荷を解消するために、さらに費用を投入し、税金を投入し、壊された環境と借金という負担を私たち子どもたちの世代に残して良いのでしょうか。
 リニア計画により、子どもたちに明るい未来があることを環境への影響が無いことと同時に示していただくよう、切に要望し意見とさせていただきます。