『大規模開発による紛争の予防に関する条例の改正』の提案

世田谷区の「若林まちづくり協議会」

   世田谷区の「若林まちづくり協議会」(協議会)は、区の呼びかけを契機に、世田谷区の街づくり条例に基づいて発足した団体です。
 団体の提案に沿ったかたちで、平成12年6月には、世田谷区若林3・4丁目の防災整備蓄計画策定が策定されています。
 また、地区計画策定後も懇談会を継続し地域のまちづくりについて取り組んでいます。
 

 この「若林まちづくり協議会(協議会)」が、世田谷区に提出した「大規模開発による紛争の予防に関する条例の改正もしくは新規策定」について、協議会の皆さんからお話しを伺いました。

 「若林まちづくり協議会」は、地域の防災機能の向上や敷地の細分化による環境の低下を防止するための制限などを地区計画に盛り込み、地域のまちなみを守るために活動してきました。
 昨年、地域内にマンション開発計画があがりましたが、「協議会」が提案し施行された地区計画では、十分な防災機能や環境が担保されないことがわかりました。

 建物が建設されることになると、周辺の住環境に何らかの影響があるため、地域での紛争となるケースが多いことから、多くの自治体では「中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」を制定し、建築をめぐる紛争予防に努めています。
  
 例えば、大田区にも 「大田区中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」 が制定されていて、建築のお知らせ看板設置の義務付けや地域住民向け説明会の開催、紛争調整のための「あっせん」「調停」場を持てることなどが記されています。

 良好な住宅地として地域の住環境を守ってきた地域住民が、その地域が良好な住環境を売りにしたマンション建設によって、守ってきた住環境を乱されてしまうといったことが各地で起きています。そこに建物が建つことにより「日照」「騒音」「プライバシー」「景観」「緑」「風」「威圧感」・・・など何らのかの住環境悪化を被る地域住民と、取得した土地から少しでも多くの利益を上げようとする(=床面積を増やそうとする)デベロッパーとの利害が真正面からぶつかり合うことになります。

 「中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」がそうした住環境の変化に対して調整したり協議をしたりする場を保障していると思う方も多いと思いますが、多くの建築紛争に関わった方が実感している通り、地域住民の維持してきた暮らしを守るという視点で作られていません。

 「建築基準法」や「都市計画法」などの法律を守っていれば、それが、地域の住環境に大きな変化と影響を与える建築計画であっても、建築確認の判断には左右されないのが現状です。

 「若林まちづくり協議会」は、世田谷区の「大規模開発による紛争の予防に関する条例」がもっと住民の住環境を守るために機能するために、
・事前協議を義務付けるとともに周知期間を現状の60日より長くすること
・緑地の保全
・建築物の高さをその面する道路幅によって制限する
・避難路確保など安全面の配慮を義務付ける
といった提案をしています。

 自治体により、紛争予防条例の細かな違いは有るものの、条例の持つ効力はほとんど違いがありません。
 紛争予防条例をどのように改正するかは、地域住民の問題意識の違いによって変わってくるものですが、現状の、建設する側に主眼のおかれた建築確認のしくみを、いかに住民主体(=生活者主体=市民主体)にするかという課題は、日本全国共通であり、大田区も同じ課題をもっていると考えます。

 池上8丁目のスーパー建設の問題が、スーパー事業者と地域住民、或いは、スーパー建設者と地域住民の間の「私人間」の問題に留まらない、地域の環境やまちなみなどまちづくりの問題がその根底にあったように、マンション紛争や建築紛争も、そこに隣接する一部の住民と建設事業者との「私人間」の問題にとどめてはなりません。 
 
 国土交通省は、景観の整ったまちなみの方が、そうでないまちよりも財産価値の高いという研究結果( 景観の経済価値)を公表しています。
 京都市が規制を厳しくして古都のまちなみを守るように、それぞれの地域が、「居住性」や「まちなみ」や「景観」としてまちをとらえる時期がようやく来ようとしています。


なかのひと