コスト意識無き広域処理が被災自治体の財政悪化要因になる懸念について

5月4日に報告した【災害廃棄物広域処理:現地視察速報】宮城県・仙台市・岩手県(4月30日〜5月2日)の後段部分、「起債がその後の自治体財政負担要因になっている」について詳しく説明してほしいというご連絡をたくさんいただきましたので、今日は、その財政的な部分について説明します。

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■災害廃棄物広域処理が被災自治体の財政負担になる■

今回の視察で気付かされた論点のひとつが、広域処理が市町村に与える財政的な影響でした。

国が100%補助と言っているので、私たちは、被災自治体は財政的な影響無く、災害廃棄物処理を行えると思っていないでしょうか。

私が、コストの面について指摘してきたのも、100%国が負担するのを良いことに、コスト意識なく
処理方法が選択されているのではないかという問題意識からでした。

しかし、今回の視察の中で、莫大な輸送費用をかけ処理することについてどう考えるかを尋ねたところ、後年度の財政負担につながるため、できるだけ処理費用は抑えたいと県の担当が話されていました。

■100%国補助ではなかった災害廃棄物処理費用■

うかがったところ、災害廃棄物処理の費用は現在、

95% 国が補助
5%  起債

となっています。この起債部分は、借金ですから、借りた被災自治体が返さなくてはなりません。
一般に、起債償還期間は10年。(2度の30年までの延長が認められている)

国は、この5%の部分については「交付金」でみると言っていますが、普通交付金であれば、その算定の性格上、必ずしも、返済金100%を実額で補助してもらえる交付金が支給されるわけではありません。
しかも、財務省による災害査定で、全額交付金算入されるかどうかというハードルも残っています。

■全額国負担は24年度まで?■

とりあえず、平成23年度分は特別交付金で担保されるため、実質100%全額国負担が決まっていて、24年度についても特別交付金で担保される見通しだそうです。しかし、今後、償還期間10年(延長あれば最長30年)にわたり、国が面倒みてくれるかどうかの保証は無く、被災自治体では、特別交付金でこの5%の起債償還部分をみてほしいという希望があります。

100%国負担と言っているのは、23年度、そしてたぶん24年度についてのみのため、被災自治体としては、財政面についての不安を抱えているわけです。

■高額な廃棄物処理費がどう被災自治体の財政負担につながるか(試算)■

3月の環境省と交渉で、財政支出的に1/3約4千億円を費消していると言っていましたので、それから逆算するとおよそ1兆2千億円が災害廃棄物処理の全額になります。

このうちの5%=600億円が起債により手当てされるわけです。
これを被災自治体は、10年(最長でも30年)かけて返していくことになると、年60億円(20億)が利息を除いた返済金額です。

今回の処理費用は、阪神淡路の2万2千円に比べ、岩手県で6万3千円。宮城県で5万円と2倍から3倍近くかかっています。
仮に、処理費用が1/2であれば、起債金額も1/2。60億(20億)円が30億(10億)円になる計算です。

たとえば、平成24年度の大田区一般会計予算総額は、2246億円。一方の宮古市の平成24年度の一般会計予算は502億円。大槌町は128億円。その規模がおわかりになると思います。
ちなみに、大田区の一般会計予算は、昨年度平成23年度の2309億円に比べ減っていますが、宮古市は303億から502億に約4割、大槌町は、107億から128億に約2割増えています。もちろん税収の伸びからの増額ではありません。


■求められる被災地支援とは■

しかも、起債は、廃棄物処理に限ったことではなく、むしろ、壊れた防波堤や港湾施設の整備、下がった地盤の埋め戻し、道路や橋などのインフラ整備に対し莫大な金額が投入されていきます。その額は、廃棄物処理とは比較にならないくらい大きな金額になるでしょう。

そして、本来なすべきは、被災地で暮らす方たちの生活をどう再建するかで、こうした廃棄物処理や、インフラの整備はその前提にすぎません。
ところが、問題は、この「前提」をあたかも復興の指標のようにとらえてしまっていることです。

この災害廃棄物広域処理のスキームは、果たして、本気で、長期的な被災地東北の復興を考えたものなのでしょうか。